つくばサミット弾圧救援会のブログ

5月24日早朝、私たちの仲間Aさんの自宅に突然押しかけてきた茨城県警つくば中央署は窓ガラスを割って強引に侵入し、家宅捜索をした上にAさんを建造物侵入容疑で逮捕していきました。私たちは茨城県警に対し強く抗議し、連れ去られたAさんの一刻も早い解放を求めます。 → 6月14日に解放されました!                 連絡先  メール tsukubakyuuen“あっと”gmail.com        ツイッター つくばサミット弾圧救援会 @tsukubakyuuen  

弁護人による検事宛意見書

被疑事件 建造物侵入被疑事件

被 疑 者 水戸警察署129号

 

意 見 書

 

2016年6月12日

 

水戸地方検察庁 御中

 

弁 護 人   吉 田  哲 也

 

頭書被疑事件について,弁護人の意見は下記のとおりである。

 

第1 意見の趣旨

不起訴処分としてうえで,速やかに被疑者を釈放すべきである。

 

第2 意見の理由

 1 被疑者は所為は建造物侵入の構成要件に該当せず,被疑者は無実である。

⑴ 本件被疑者(茨城県警察水戸警察署留置番号129号)は,2016年5月24日に,茨城県つくば市の自宅において同県警察つくば中央警察署所属の司法警察員によって令状逮捕された後,同月26日に茨城県警察水戸警察署留置施設に勾留する旨の裁判を受け,同年6月3日にさらに10日間本件勾留を延長するとの裁判を受けたものである。

⑵ 勾留状記載の被疑事実は,被疑者が3月18日に,つくば国際会議場1階エントランス部分において,同エントランス部分に入館したG7参加国の大使館員らに対し”Unwelcome G7”等と記されたボード(大きさはA3版×4枚程度,以下,「本件ボード」という)を両手に掲げてアピール行為をなした所為をもって,建造物侵入に該当するというものである。

⑶ア しかしながら被疑者は,当時一般開放されていた同会議場北東入口から入館したものである。そして被疑者は,本件ボードを隠すことなく小脇に携行したまま上記入口から入館したものであるところ,入館に際して誰何,用件の確認,制止等を一切受けることなく,平穏に同会議場に入館している。

イ また被疑者が立入った同会議場は人の起臥寝食がなされる住居ではないのだから,個人の人格的尊厳の核心をなす住居権あるいはプライバシー権等の侵害が問題となるものではない。また被疑者は,自己とは無関係の会議あるいは展示等が開催されている会議室,やース等の部分に立入って上記所為をなしたものではないのだから,それら会議あるいは展示の主催者参加者の集会の自由等を侵害するものでもない。

被疑者が立入ったのは一般に開放され自由に出入りすることができる同会議場1階エントランス部分であるのだから,たとえ同会議場管理者の管理権が問題となるにしても,施錠された場所あるいは立ち入り禁止とされている場所に比して管理者の管理権保護に対する期待は自ずから小さいものである。

そして被疑者は上記ア記載の同会議場北東入口からせいぜい10m弱程度立入ったにすぎず,同会議場1階エントランス部分に立入っていた時間も極めて短時間であり,その後には自ら,やはり開放されていた前出北東入口から同会議場を退出している。

ウ そして被疑者が同会議場1階エントランス部分でなした所為は前記⑵記載のアピール行為であり,これが政治的意思表明たる表現行為であることは自明であり,憲法第21条1項の「その他一切の表現の自由」の保障の下にある。一般に開放された場所においてボードを掲げてアピール行為を為すという表現態様は,マスメディアへのアクセスが容易ではない個々の市民にとって自己の政治的意思を表明するための重要かつ効果的な表現方法であるのだから,民主主義国家においてはとりわけ強く保護されるべきものである。

エ したがって,被疑者が本件ボードを隠すことなく携行して入館していることをも併せ考えるのであれば,公衆に解放されているデパート内になんら憲法上の保障を受けることのない窃盗行為を為す目的で,かつその目的を秘して立入るケース等と,被疑者の前記本件所為とを同列に置いて論じることが失当であることは自明である。

オ そうであるのだから,当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れるのであれば,本件被疑者の立入り行為が法秩序全体の見地から許容されるものであること(最高裁昭和48年4月25日大法廷判決 刑集27巻3号418頁)は至極当然であると言わなければならない。

⑷ したがって,本件被疑事実においては「正当な理由」が存在するのであって,そもそも建造物侵入の構成要件を満たすものではない。

 

2 可罰的違法性がなく,あるいは違法性が阻却されるから被疑者は無罪である。

⑴ア 仮に本件被疑事実が建造物侵入の構成要件に該当するとしても,前記1⑶のように「侵入」の程度,形態はごく平穏でありかつ極めて短い時間に留まる軽微なものであるだけでなく,すぐに被疑者は同会議場を退出しているのであるから,実害は殆ど生じていないというべきである。

イ そうであるから,本件被疑事実とされる事象は法秩序全体の見地からこれを見るときに建造物侵入罪もって処罰しなければ社会生活上許せない,というほどの違法性があるものとは認められない。

⑵ア それに留まらず,被疑者は本年5月に開催されたつくばサミットに対するアピール行為を行っていたのであり,このアピール行為が憲法21条1項の「その他一切の表現の自由」の保障を受ける表現行為であることは前述のとおりである。

イ この政治的意思表明たるアピール行為は高度の公共性と公益性を有するものであって,優越的地位にある表現の自由の中にあっても特に強く保護されるべきものである。そして本件被疑事実とされる所為が上記アピール行為の一環ないし補助手段としてなされたものであることもまた明らかである。

⑶ そうであるのだから,生じた実害が殆ど認められないことも併せ考えるならば,本件被疑事実は違法性が阻却されるというべきであり,本件被疑事実とされる事象に刑事罰をもって応じることは,憲法に反すると言わなければならない。

 

3 本件被疑事実とされる事象に起訴価値はなく,勾留を請求したことがそもそも違法不当である。

⑴ 本件被疑事実は建造物侵入の構成要件に該当せず,百歩譲って勾留状の被疑事実に拠ったところで極めて軽微であって起訴価値を欠くものであることは明らかである。

この本件において,任意の事情聴取すら求めずいきなり捜索差押をなし,逮捕状による逮捕に踏み切り,それに続けてなされた本件勾留は,本年5月に伊勢志摩で開催されたサミット警備の一環として情報収集と威嚇の目的でなされたものである。このことは,本件被疑事実記載の事象はつくば市で発生し,被疑者の住居もまたつくば市にあるにもかかわらず,被疑者の取調べにあたっているのが前出つくば市を管轄する茨城県警察つくば中央警察署の警察官ではなく,茨城県警察本部警備部所属と思しき警察官であることから明らかである。

⑵ また本年5月24日に被疑者の自宅において執行された捜索差押令状においては被疑者をして「黒ヘルグループ活動家」としたうえで,差し押えるべきものとして「黒ヘルグループ及び同派傘下団体若しくは対立するセクト等の「規約」,「会議録」「闘争計画等に関する文書」等が列挙されていた。

しかしながら,逮捕の初日につくば中央警察署において被疑者の取調べと身上調書の作成にあたった茨城県警察本部警備部所属と思しき「大下」を名乗る警察官は,被疑者に対して「黒ヘルグループって知ってるか?まあ,知ってるわけないよな」と言い放っている。捜索差押令状を請求した捜査機関,唯々諾々と令状発付をなした裁判官の所為は笑止千万であり言語道断と言わざるを得ない。

⑶ 上記警察官の発言に体現されているように,何ら起訴価値のない本件についてなされた被疑者の自宅の捜索,そして逮捕勾留は,犯罪捜査の名を借りた違法不当な警備警察活動である。捜索差押による情報収集と身体拘束による威嚇とによって,被疑者のみならず広く市民の表現活動と政治的意思表明に対する委縮効果を及ぼすものであり,またもっぱらそのことを目的としてなされたものである。不当極まりない。

 

5 結語

   以上のとおりであるから,頭書事件については不起訴処分としてうえで,速やかに被疑者を釈放すべきである。

  

以 上